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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(あ)10号 決定 1972年3月02日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人海老名利一の上告趣意のうち、憲法一四条、第三〇条違反をいう点の実質は、昭和二九年法律第二九号による改正前の地方税法三一四条の二の規定の解釈の誤りをいう、単なる法令違反の主張であり、その余は、事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(なお、当時北海道空知郡中富良野村村長の職にあつた被告人が、給与所得を有する村民税納税義務者三八一名に対する昭和三八年度の所得割の賦課に際し、同村条例の規定にしたがつて課税総所得金額を算定せず、同村条例になんら規定がないのに、総収入金額から、それが一〇〇万円以下のものについてはその三九パーセントにあたる金額を、それが一〇〇万円をこえるものについては三九万円を、それぞれ控除し、合計七七万三八〇〇円の過少賦課をしたうえ、同額の過少徴収をしたことをもつて法令上許されない行為であり、したがつて、被告人の右行為はその任務に違背したものであるとした原審の判断は、相当である。)。

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(岡原昌男 色川幸太郎 小川信雄)

弁護人海老名利一の上告趣意

本件控訴審に於いて地方税法に関する部分について違反であるとした判決は憲法第一四条及び第三〇条並びに地方税法第三一四条の二の解釈を誤つているものであり、又任務に背いて行為する認識を有する点について第一審に於いてはその認識がなかつたとして無罪を言い渡したものであるが、第二審に於いてその認識があつたとして有罪の言い渡しをしたのである。

以下述べる通り、法律の解釈適用を誤つたものであり、任務に背いて行為する認識があつたとする第二審判決は証拠の取捨選択ないしその価値判断を誤つた結果重大な事実の誤認をなし、当然無罪となるべき事実を有罪としたもので到底破棄は免れないものと信ずるものである。

第一、本件判決は憲法に違反するものである。

憲法第一四条及び第三〇条の規定並びに同号の精神に基いて明かな通り、税の均衡は憲法の保障するところであり、これに従つた処置を違法とする第二審判決は違法なものである。即ち地方税法第二条に基いて、市町村民税の課税権を付与し、給与所得者の住民税に対する控除については、地方税法第三一四条の二において規定されておるが、これは給与所得者に対する控除の最低の基準を定めたものであり、控除の増率を禁止したものでなくかつ禁止規定もない。

即ち賦課権者である市町村は住民に対し、法律に定めた以上の過重な税の負担を禁止したものにすぎないものである。これは憲法並びに税法の大原則である。

原判決は租税法律主義を言う、税法は徴税の法であることはいうまでもないが、租税法律主義の要請からいつて、法的には税金を賦課することの出来ない限界を明らかにするところにその重要性がなければならない、税法の目的は納税者の財産権を擁護することにある従つてその目的にそつて地方税法第三一四条の二を解するならば、所得控除の最低を本条において定めたことにほかならないものである。

しかして本件控除を違法とするならば所得税法第九条第一項第五号並びに地方税法第三一四条の二は税法のその目的を果していないものであると言わなければならない。

医師の所得税或は農民の予約出荷減税等に関しては、控除額を租税特別措置法並びに臨時特例法に基いて優遇しているがこれは明らかに法の下に平等でなければならないという憲法第一四条に違反するものである。

又事業所得者においても控除額をそれぞれ税務当局と折衝のうえ決定するということも明らかに憲法違反である。

即ち前述のことが憲法に違反しないと言うことは所得控除の最低を地方税法が定めたと言うことの立証をなすものである。

近時巷で九(給与)六(営業)四(農業)或は十、五、三という諺がありそれぞれの所得の把握度合を示しているが、所得の把握並びに必要経費の控除については、法のもとに平等でなければならない訳で憲法第一四条にはそれが保障されているものであるが、はたして現状はどうか、前述の通り医師等は特別に保護され且つ営業所得者農業所得者については申告納税制度のもとに所要の経費が控除されるばかりでなく所得の把握に於いても必ずしも一〇〇%とはなつていないことは公知の事実である、

反面給与所得者の所得については全くガラス張りであり特別徴収義務者(給与支払者)によつて全額一〇〇%報告されかつ源泉徴収税額並びに住民税(都道府県民税を含む)を天引されるというのが実態である。

しかして給与所得者の控除は地方税法第三四一条の二により所得税法第九条第一項第五号の控除のみとするならば他の所得者との均衡を著しく欠くことはこれ亦公知の事実である。

本件が違法とするならば公平の原則に反する、

いわゆる所得控除について給与所得者のみが、その権利を剥奪されている所得税法並びに地方税法そのものが憲法の精神に反するものと言はなければならないものであり且つ所得の捕捉率についても同様のことが言えるものである。<以下略>

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